通訳に求められるスキル

ミャンマー語翻訳・通訳合同会社あうんの細川です。今回はテーマは、通訳に求められるスキルです。通訳に求められるスキルが分かれば、通訳を選定する基準が明確になります。その基準を使って、良い通訳を選ぶことができます。また、通訳スキルが分かれば、通訳を目指す者は、それを一つひとつ身に付けていくことで、確実に通訳が上手くなるはずです。

通訳に求められるスキルというと、多くの方は、第一に外国語能力を思い浮かべると思います。確かに、外国語能力が無ければ通訳が出来ないわけですから、高い外国語能力は必要です。そのため、外国語の上手い日本人、日本語の上手い外国人に通訳をお願いする事になるのは当然のことです。

一方、通訳者によって書かれた通訳に関する書籍やブログを読んでみると、通訳に求められるスキルは、外国語能力だけでないことが分かります。ほぼ全員が共通して指摘しているのは、日本語力です。母国語である日本語を、正確に理解し、きちんと表現することができなければなりません。(その意味で、私はまだまだ半人前です。)

また、一般教養や、通訳する領域に関する事前知識の必要性も指摘されています。話し手が話している内容を理解するためには、その分野の基礎的な知識を持ち合わせている必要があります。例えば、数学者の講演が日本語で行われていたとしても、数学についての基礎的な理解がない者がそれを聞いても、さっぱり何を言っているか分からないと思います。こんな状況では、通訳できるはずがありません。

さらに、通訳学校に通うと通訳ノートの取り方もマスターする必要があることが分かります。話し手が話した大量の内容を効率よくメモすることで、全ての内容を正確に通訳することができるようになります。そのためには、話された内容をすべて文字に起こすことができる速記ではなくて、通訳専用のメモの仕方があります。

通訳に必要なスキルは、このように説明されることが多いのです。しかし、これだけでは通訳者に求められるスキルをすべて分析尽くしたとは思えません。もう少し、詳しく分析する必要があると思います。

通訳に求められるスキルをより詳しく分析するためには、ある一定の視点を持つ必要があります。そして様々な面から、通訳に求められるスキルを分析できるはずです。今回は、通訳プロセスという視点から、通訳に求められるスキルを分析してみようと思います。

通訳のプロセスは、次のとおりです。ます話し手の内容を「理解」し、次にその内容を一定期間「記憶」し、最後にそれを外国語で「再表現」する。この3段階の過程を経て、通訳者は通訳をしていると言われています。このそれぞれの段階を考察すると、そのそれぞれで段階で求められるスキルが異なっていることがわかります。

まず、「理解」段階。この段階で通訳者は、話し手の話す声を聞き、その内容を理解しようと努めます。ここでは、リスニング力と理解力が必要となります。

通訳者は、話し手が話す声を正確に聴き取らなければなりません。リスニング力です。外国語であれば、リスニングが重要であるのは、誰もが認めることでしょう。しかし、日本人だからと言って、日本語をきちんと聞き取れるわけではないのです。日本語で特に厄介なのが、同音異義語の存在です。

例えば、「私法(しほう)」と「司法(しほう)」。これら2つの単語とも、ひらがな表記にすると同じ発音となります。イントネーションは、若干異なるはずですが、きちんと聴き取らないと混同してしまいます。「これらは私法の問題です」などという発話があると、かなり後になるまでどちらの問題かはっきりしないこともしばしばです。

「しほう」には、他にも「市報」、「四方」などがあります。通訳者は、これら沢山の語彙を理解しておく必要(語彙力)があるうえ、それを聞きながらにして一瞬に判断しなければなりません。

この判断を助けるのが、「理解力」です。通訳者は、話し手が話した内容を理解する必要があります。

通訳者ごときに、私たち専門家の発言の内容が分かるわけがないと思われるかもしれません。しかし、「私法」か「司法」かの問題にあるように、発言の内容を理解しなければ、正確に伝えることはできないのです。

もちろん一般の聴衆も発言の内容を理解しながら聞くわけで、その意味では通訳者に別段特別の理解力は必要ないと思われるかもしれません。しかし、私は通訳者には一般の聴衆より深い理解力が必要だと考えます。

普通の聞き手は、器機ながら話の内容が良くつかめない時でも、話がある程度進んだ時点で、きっと発言者はこう言いたかったんだなと考え直すことができます。しかし通訳者には、そのようなタイムラグは許されません。発言者が発話したその一文一文ごとに発話の意図を正確に理解していく必要があるのです。

話し手が話す内容を事前に十分咀嚼していないと、このような理解をすることはできないはずです。もし、できる人がいたとしても、それはその分野の専門家でしょう。

話しの背景を理解せずに、言葉のみを置き換えていたのであれば、通訳者が外国語で語る内容は説得力を失ってしまいます。説得力を持って話すには、どの情報が大切で、その情報を補っているのは何なのかも、話し手の発話から即座に理解する必要すらあるのです。

次に、「記憶」段階。通訳者は、「理解」した内容を、自分が外国語でその内容を伝えるまで頭の中に記憶しておく必要があります。ここで必要となってくるスキルが、記憶力とノートの取り方です。

記憶力については、あまり説明する必要はないでしょう。通訳者は記憶力が良くなければなりません。国際機関の通訳者などは、平気で数分間のスピーチを何もメモを取ることなく記憶することができます。

通訳者といえども人間ですから、全てを頭の中に記憶することはできません。また、数時間に及ぶ通訳で、全てを頭だけで記憶していては、身体が持ちません。

そこで必要となってくるのが、通訳ノートです。通訳者は、発言の内容を漏らさず通訳することができるように、ノートを取ります。しかし、発言の内容すべてをノートするわけではありません。言い換えれば、速記者がするように全ての単語をノートするわけではないのです。

実際通訳者のノートを見てみると、予想とは裏腹にあまり多くのことがメモられていないことに驚かされます。

通訳者は、ノートに書いた内容から、自分の頭の中に描いてある話のストーリーを紡ぎだしているのです。ノートする内容は、頭の中にある絵が、生き生きと動き出していくきっかけを作り出すものでしかないのです。

もちろん、通訳者毎にノートの取り方は異なっていますが、基本は、頭の中で「記憶」した内容を、次々と思い出していくためのきっかけとなるようなことをノートしているはずです。

最後に、「再表現」段階。話された内容を、通訳者が外国語で言い換える段階です。一般的に通訳と言えば、この段を思い浮かべることでしょう。この段階で必要となるスキルが、表現力。そして付け加えるならば、場を読む力と度胸です。

ここで私が言う「表現力」には、当然外国語運用能力が含まれますが、それだけではありません。言葉の意味だけでなく、その言葉を発する通訳の「すべて」が問題となります。

私は常日頃通訳者は「パフォーマー」だと考えています。発話者が発言した内容を、言葉だけでなく、自らの体の全てを使って表現するのです。

プレゼンが上手な人は、聞き手の注目を集めるのが上手いと思います。同じように、上手な通訳者は、聞き手を飽きさせることなく、通訳をすることが可能です。

発言内容は同じでも、通訳者がそれを棒読みするように話すのと、強弱をつけて話すのでは、内容の伝わり方に差が出ます。通訳は、言葉だけでなく、声のトーンや表情、そして身体の全てを使ってするものなのです。

通訳者は芸人の様に、通訳会場の場の雰囲気を読んで、同じ内容をどのように表現するかを考えなければなりません。

しかし、これがなかなか難しい。

度胸がないと怖気づいて、内容は正しいが、口ごもりよく聞き取れない。言い漏らすのが怖くて、ノートばかりをのぞき込むと、聴衆が話の内容を理解しているかどうかを確認することができない。その場でどう立ち振る舞えるかが、重要になってきます。

以上、通訳者に求められるスキルを通訳の過程という視点から考察してきました。もちろん、ここで述べた書くスキルは、より細分化して考察する必要があります。

しかし、ここでそれをさらに細かく論じる必要はありません。通訳者に求められるスキルは、外国語能力だけではないということを理解してもらえれば十分です。

通訳を使う側の人たちは、ただ単に外国語能力だけでなく、このような視点から通訳者を評価して欲しいと思います。また、通訳を目指す人たちは、このようなスキルを一つずつ身に付けて行ってほしいと思います。

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