読み手の視点を考慮した翻訳

少し前のことだが、ミャンマー人を対象とした研修を担当していたところ、講義の一環としてロールプレイを行うことになり、その際に使用する原稿の翻訳を依頼された。

シナリオは2つあり、当時担当していた別の通訳と一つずつ担当することになった。相手はミャンマー人だからと言って負けていられない。翻訳の質を示す良い機会。当時別の翻訳案件も抱えていたが、本気で取り組まなければいけない。相手との真剣勝負!

翻訳の内容はというと、A、B、Cの3名で行うロールプレイの台本。1つのシナリオにつき、それぞれ別々の情報が書かれた文章が3枚。1枚は3人に共通の内容で、A、B、C、3名全員に配布される。もう2枚は、その役を担当するBとC、それぞれにのみ配布される内容で、より具体的な内容が記載されている。

共通の内容が書かれた現行のタイトルは、「共通事項」。もう2枚のタイトルはというと、「当事者Bのみが知る事項」と、「当事者Cのみが知る事項」

「共通事項」これをどう訳そうか?最初から躓いた。もちろん文字通り「共通事項」と訳せないわけではない。そんなことは朝飯前。

でも、本当にそれでいいの?それで読み手は何を言いたいか理解できるの?どうしてもしっくりこない。

この「共通事項」と書かれた1枚は、ロールプレイを担当する当事者のみならず、その様子を見学する他の人たちにも配られる紙。「共通」と訳してしまっては、その内容が何と共通なのか理解できないのではないか。

直訳してはだめだ。作文者の意図を読み取り、読者にその意図が伝わるように訳すひつようがある。これぞ翻訳者の腕の見せ所。

(翻訳に正解はありません。皆さんなら、どう訳しますか?)

「共通事項」というタイトルで、作文者はロールプレイに参加する全員が知っている公然の事実ですよという意味を含ませたいのだろう。全員に配られる紙に書いてある全員に共通する事実だから、「共通事項」というタイトルを付けたに違いない。

作文者は、3名全員の情報を作成するのだから、「共通事項」と書いても、何も不自然なことはない。共通とは、当事者Aにも、当事者Bにも「共通」に当てはまる事項だからだ。

しかし「共通事項」と書かれた紙だけを受け取る人から見たらどう思うだろう。唯一受け取る紙のタイトルが「共通事項」だとしたら、何を意味するのか、すぐには理解できないかもしれない。

作文者も、自分の言いたいことを読者に理解してもらえるように文章を書いているのだから、翻訳者も原文を作文者の視点で翻訳するのではなく、読者の視点に立ち、読み手がすぐに理解できる言葉で翻訳文を書かなければならないと思う。

色々と考えた結果、「皆に知られている事項」としてみた。これであれば、このロールプレイを始めるにあたり、参加者全員が知っている既知の内容ということが、読んだだけで伝わると考えたからである。

もちろんこれが最善の翻訳ではないかもしれない。しかし、直訳で「共通事項」と訳すよりは、より良い訳であると自負している。

もう一人の翻訳者は、私の翻訳を見るなり、「あっー私直訳してしまった!」と叫んでいた。

日本語のミャンマー語訳とは違い、ミャンマー語翻訳と言えるためには、作文者と読み手の間にある文化の谷を渡る橋を築く必要がある。

しかし、残念なことにミャンマー語翻訳業界の現状は、翻訳のイロハを理解していない翻訳者が大半を占めている。

 

 

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